Cardinale
IBA015_SEQ1_LOG301
#Cardinale
対応零字:く
Title:枢機卿
[RECORDFALL_JOURNAL]
五つの仮説を並べた。
事故。 大西。 記道新派。 第三勢力。 宇宙的適応実験。
どれも決定打には欠ける。
現時点で、記録零落の<原因>を確定することは出来ない。
ならば、原因ではなく<結果>を見よう。
仮説がいくら増えようと、既に確認されている喪失までは消えない。
1.固有名と対象の剥離
人々は、自分や他人の名前そのものを一律に忘れたわけではない。
残っている名もある。
だが、その文字列が<誰を指しているのか>という対応関係が崩れた。
名前が人物ではなく、単なる識別番号<データID>として機能する例も確認されている。
名は残っている。
名付けられた者が、そこから抜け落ちている。
2.意味の液状化
<正義> <犯罪> <家族> <国家> <愛>
かつて固定されていたはずの意味と対象の接続が、安定しなくなった。
同じ単語を読んでも、人によって異なる対象へ接続する。
昨日まで<犯罪>だった行為が、別の記録系統では<正義>として参照される。
誰かが自在に辞書を書き換えている、という証拠はない。
確実なのは、我々が同じ語を使いながら、同じものを見ている保証がなくなったことだ。
3.物理記録への回帰
紙。 壁。 傷。 刺青。 匂い。 味。
人々は、ネットワークの外にあるものへ記録を戻し始めた。
消去されないためというより、自分の記憶と対象の接続を、手で確認するためだ。
PROK-TEL技術も、その延長線上に存在している可能性がある。
液体を口に入れ、温度、香り、苦味、痛みとして身体に通す。
意味が信用できないなら、身体の反応から記録へ戻る。
随分と原始的な方法だ。
だが、今のところそれが一番ましらしい。
ここまでが、五つの仮説を剥がした後にも残るものだ。
原因はまだ読めない。
犯人も分からない。
ただ、人間は自分の記録を自由に書けなくなった。
残された断片を拾い、それが何を指していたのかを読み直している。
少なくとも、今の俺たちはそういう場所にいる。
[MISOLOGY_RX/PROK-TEL]
Code:Cardinale
Class:カルディナーレ
[SYNTAX]
40ml_ジン
20ml_ドライベルモット
10ml_カンパリ
氷
ステア
ストレイン
[MITSURUGI_NOTE]
カルディナーレ。
枢機卿の赤だ。
見た目はネグローニによく似ている。
だが、使うのは甘いベルモットじゃない。
甘さを削った分だけ、ジンとカンパリの苦味が露骨に残る。
五つも仮説を並べた後には、ちょうどいい。
誰がやったのかなんて、まだ分からない。
だが、失ったものまで仮説になるわけじゃない。
俺たちは名前を失った。
正確に言えば、名前と人間の間にあったものを失った。
赤い服を着た聖職者を見て、<枢機卿>という名前だけ思い出せても、そこに誰が立っていたのか分からない。
そんな記憶に、どれだけ意味がある?
甘くない現実ってのは、随分と飲みにくい。
[REFERENCES]
IBA – International Bartenders Association
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